ADHD(注意欠如多動性障害)
- 発達障害
- ADHD(注意欠如多動性障害)
ADHD(注意欠如多動性障害)の概念
ADHD(注意欠如多動性障害)はAttention deficit hyperactivity disorderの略称です。
ADHD(注意欠如多動性障害)とは文部科学省の定義によれば
「ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。」
とされています。
つまり年齢や発達に不釣りあいな不注意、多動性、衝動性のいづれか1つ以上を特徴とする発達障害です。
これらの症状によって日常生活や学習に支障をきたしてしまいます。
具体的には、
- 不注意
- …気が散ってしまい活動に集中できない。物をなくしやすい。順序を立てて活動に取り組むことができない、勉強でうっかりミスをしてしまう。
- 多動性
- …じっとしていられない。落ち着きがない。おしゃべりが止まらない。
- 衝動性
- …順番待ちができない。思いついたらすぐ行動してしまう。感情のコントロールができない。
7歳までに以上のような症状が現れますが、思春期を過ぎたころからは目立たなくなることが多いです。
また有病率は学齢期の子どもで3~7%ほどであり、男性のほうが女性よりも数倍高いといわれています。
意識的に予防しようと試みても以上のような症状があらわれてしまい、それにより両親や教師に怒られ、自分はだめなんだという否定的な自己イメージを持ってしまい生活がつらくなることがあります。
ADHD(注意欠如多動性障害)の原因
ADHD(注意欠如多動性障害)は脳の機能障害が原因であると言われています。脳内での情報交換は、細胞同士がドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質を受け渡しすることで行われていきます。
ADHD(注意欠如多動性障害)では、この神経伝達物質の伝達が効率良く行われていないと考えられています。
神経伝達物質は量が多ければ良いわけではありません。情報を受取る側の細胞には「受容体(レセプター)」と呼ばれるドアがあり、開閉をしながら必要な分の神経伝達物質を取り込んでいます。
しかし中には、せっかく放出したのにドアを通れない伝達物質もあります。そこで、この余分な伝達物質を、伝達物質を放出する側の細胞が再利用しています。再利用のための取り込み口が、トランスポーターです。
ADHD(注意欠如多動性障害)ではトランスポーターが働きすぎるあまり、本来ならば取り込む必要のない量の伝達物質まで再利用していると考えられています。そのため、ADHD(注意欠如多動性障害)の治療では、トランスポーターの働きを抑える薬が用いられることがあります。
ADHD(注意欠如多動性障害)と脳
ADHD(注意欠如多動性障害)の症状がどのようにして起こるのかは、まだ解明されていません。しかし、脳内で機能の偏りがみられることが原因であるという説は有力です。特に前頭葉と尾状核と呼ばれる部分が関係していると言われています。
前頭葉は衝動性や感情のコントロール、適度な集中力、見通しをもって判断をするといった役割を担っています。また短期記憶(ワーキングメモリ)と呼ばれる、私達が何かを考えたり情報を処理するときに使う記憶をコントロールしている部位でもあります。
尾状核は脳の中心部にある行動や運動のコントロールを行う部位で、最近の研究では学習や記憶に関わっているという報告もあります。
ADHD(注意欠如多動性障害)では、これらの部位の機能の偏りがあるために特徴的な症状がみられると考えられています。
ADHD(注意欠如多動性障害)の遺伝
海外の研究では、家族に ADHD(注意欠如多動性障害)の人がいると、そうでない場合に比べ、生まれて来た子が ADHD(注意欠如多動性障害)である確率が高くなるという報告があります。ただし、遺伝子レベルでは複数の遺伝子の関与が疑われていて、ほとんどの遺伝子を持っていたからといって必ず ADHD(注意欠如多動性障害)になるわけではありません。親が糖尿病であっても、子どもが必ずしも糖尿病になるわけではないというのと同様です。
ADHD(注意欠如多動性障害)と合併症状
ADHD(注意欠如多動性障害)は、他の症状を合併することもあります。いくつかについて紹介しておきましょう。
- 他の発達障害との合併
ASD(自閉症スペクトラム)やLD(学習障害)といった他の発達障害を合併することが比較的多くみられます。そのため、それぞれに生じやすい困り感も併せて抱えていることがあります。 -
睡眠障害
ADHD(注意欠如多動性障害)の子どもは睡眠障害を合併することが多いという報告もあります。特に、むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害といった聞きなれない睡眠障害を合併していることもあるようです。
睡眠は人生の約1/3の時間を占め、疲労回復や、記憶、日中の集中力や思考力へも影響を与えるものです。気になる場合は睡眠を専門とする医師に相談してみると良いでしょう。 - 2次的な問題
自己肯定感の低さや自己表現の苦手さがあると、精神的な症状や反抗的な態度として表面化することがあります。
ADHD(注意欠如多動性障害)の症状は周囲から誤解されることが多く、自己否定が強くなることがあります。幼い頃から、本人の特徴に合わせた関わりをしながら自己肯定感を育むこと、そして表現の背景にある事柄についても気を配ることが必要です。 - 勉強、仕事、その他の活動において、細かいところへの注意が払えなかったり、、不注意な間違いをする。
- 課題や遊びで注意力を持続させることができない。
- 面と向かって話しかけても話を聞いていないように見える。
- 指示に従わず、勉強や用事などのやらなくてはいけないことがやり遂げられない。(反抗的な態度をとる、指示が理解できないことを除く)
- 課題や活動を順序立てて行う事が出来ない。
- 勉強のように精神的な努力を持続させないといけないことを避けたり嫌ったり、またいやいや行ったりする。
- おもちゃや宿題、鉛筆など活動に必要なものを失くしやすい。
- 外からの刺激ですぐに気が散ってしまう。
- 日々の活動で忘れっぽい。
- 手足をそわそわ動かしたり、椅子の上でもじもじしたりする。
- 教室など座っていないといけない場面でも席を離れてしまう。
- きちんとしなければいけないときに、過度に走り回ったり、高いところへ登ったりする。
- 静かに遊んだり、休み時間を過ごすことができない。
- じっとしていない、もしくは、まるでエンジンで動かされているように行動する。
- しゃべりすぎる。
- 質問が終わらないうちに答え始めてしまう。
- 順番待ちが苦手である。
- 他人を妨害したり、邪魔をしたりする。
ADHD(注意欠如多動性障害)のサイン
最初にも記したように ADHD(注意欠如多動性障害)を含む発達障害は生まれつきの脳の障害なので ADHD(注意欠如多動性障害)の赤ちゃんはいますが、赤ちゃんのうちは ADHD(注意欠如多動性障害)によって日常生活に支障をきたすというようなことはそんなにはありません。
赤ちゃんの頃から外からの刺激に対してよく動きまわったり、周囲に注意を払わないといった傾向があるのは事実ですが、その子が元気に体を動かしている様子を見て ADHD(注意欠如多動性障害)だと親が判断するのはまず不可能です。
幼児期においては歩き始めは比較的早いのですが、言葉の出始めは遅い傾向にあります。
また、日常生活において、よく泣きなだめるのが困難であったり、じっとすることができない、睡眠障害(眠たくてふらふらなのに寝ようとしない)、偏食傾向が目立つなどが挙げられます。
幼稚園や保育園に入園するころがADHDの主症状が最も顕著に認められます。
ともかくじっとしていない、好奇心旺盛で興味が尽きない、破壊的な遊びを好む、指示に従わない、かんしゃくが強い、トイレなどの発達課題の達成が遅い、寝つきや寝起きがわるいなどが挙げられます。
ADHD(注意欠如多動性障害)の診断
発達障害の診断はお医者さんが下します。
また、診断方法としては親からのヒアリングであったりとか、発達検査の内容などを参考にするなどです。
ここでは、発達障害の診断が下される基準を説明します。
A:(1)(2)のどちらかに該当
(1)以下の不注意の症状が6つ以上、少なくとも6カ月以上続き、その程度が発達の水準に見合わない(年齢不相応の)場合。
不注意
(2)以下の多動性-衝動性の症状が6つ以上、少なくとも6カ月以上続き、その程度が発達の水準に見合わない(年齢不相応の)場合。
多動性
衝動性
B:多動性-衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳以前に存在し、生活をするうえで支障をきたしている。
C,以上のような症状により2つ以上の状況(学校と家庭など)で存在する。
D,知的障害(軽度を除く)やASD(自閉症スペクトラム)ではなく以上のような症状がある。
ADHD(注意欠如多動性障害)とSST(ソーシャルスキルトレーニング)
私たちは、色々な場面で人とのコミュニケーションのマナーやルールを守りながら生活をしています。あいさつなど身近なものから、ゲームのルール、お店や電車でのマナーなど多岐に渡ります。
これらは誰かに教えられるだけではなく、周りを見ながら学んでいくことも多いものです。
しかし、 ADHD(注意欠如多動性障害)の症状があると、ルールを誤解して受け取っていたり、正しい経験を積み重ねていないことがあります。本人はきちんと振る舞っているつもりなのに、周囲から注意をされるということも少なくはありません。
そこで用いられているのがSST(ソーシャルスキルトレーニング)というトレーニング方法です。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)では、個別や少人数で、ワークシートやゲーム、ロールプレイや共同作業など実際に体験できるものも用いて、社会の中のさまざまな場面でのスキルのほか、実際に本人が直面していることについてのスキルを練習していきます。
適切な環境、方法で正しい理解をすることは、周りとの関係にも良い変化を与え、本人の成功体験に繋がるでしょう。
【参考】
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル
榊原洋一 脳科学と発達障害 ここまでわかったそのメカニズム 中央法規
榊原洋一 図解 よくわかるADHD ナツメ社
亀井雄一,岩垂喜貴(2012). 子どもの睡眠. 保健医療科学61(1).p11-17