ASD(自閉症スペクトラム)
- 発達障害
- ASD(自閉症スペクトラム)
ASD(自閉症スペクトラム)の概念
以前は自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害と呼ばれていたものが2013年5月に新しい診断基準となり一つに統合されました。
これらの障害は基本的には同じ障害単位です。そのため、これらを分けるのではなく、スペクトラムという連続体を意味する単語を使用して「自閉症スペクトラム障害・自閉スペクトラム症」に統合されました。
具体的には、
- 相互的な適切な対人関係の障害
周りの子に無関心。目が合いにくい。他の子と遊ばない。興味のあるものを見せびらかしたり、持ってきたりしない。
- コミュニケーションの障害
言語の発達に遅れがある。会話がうまくできない。(まったく話さない、一方的に話す)オウム返しが多い。人の声に反応しない。
- 思考や行動の柔軟性が未熟
興味のパターンが強く決まっている。物事の手順に決まったやり方があり融通が利かない。奇妙な運動の癖がある。常同的動作がある。
ASD(自閉症スペクトラム)の原因
ASD(自閉症スペクトラム)の原因は、生まれつきの脳の何らかの機能障害が原因であると言われています。
脳内では、脳細胞同士が神経伝達物質の受け渡しを行いながら、複雑なネットワークをつくって情報の伝達を行っています。自閉症スペクトラムではセロトニンという神経物質の関与は疑われているものの、体内でどのような仕組みで影響を与えているかまでは明らかになっていません。
また、染色体異常や代謝疾患などの疾患でも、ASD(自閉症スペクトラム)と同様の症状が表れることがありますが、こちらも具体的な仕組みについては明らかにはなっていません。
ASD(自閉症スペクトラム)と脳部位
ASD(自閉症スペクトラム)の人と脳の関係を明らかにするために、脳の形や、活動性をもとにした研究もあります。
たとえば、脳の画像をもとにした研究では、大脳全体および脳や尾状核の容量が大きくなっている点と左右の脳をつなぐ脳梁という部位の容量が小さくなっている点については、多くの研究者の意見がある程度一致しています。
しかし、その他の部位の関与については様々な報告がみられます。また、脳内の活動性を測定する研究では、前頭葉や側頭葉(特にことばに関する領域)に異常があるという報告があります。いずれにしても、様々な議論が行われている段階です。
ASD(自閉症スペクトラム)と遺伝
ASD(自閉症スペクトラム)には複数の遺伝子が関わっていることが推測されていますが、遺伝子だけの問題では自閉症スペクトラムにはならないと考えられています。たとえ全く同じ遺伝子を持つ一卵性の双子であっても、必ずASD(自閉症スペクトラム)になるわけではありません。
遺伝子は、人間が進化してくる過程でずっと受け継がれてきたもので、両親だけから受け継ぐものではありません。また、人間の身体は元々は1つの細胞が細胞分裂を繰り返して成長していくため、その過程で何かが起こる可能性も十分に考えられます。
明らかになっていない、不明なところが多いと繰り返してきましたが、自閉症の原因については絶対的なものは見つかっておらず、複数の要因が複雑に絡まりあっていると考えられています。
現在も世界中で多くの研究や議論が行われている段階なのです。
ASD(自閉症スペクトラム)と合併症状
ASD(自閉症スペクトラム)は他の障害や症状を合併することがあります。いくつかについて紹介しておきましょう。
- 他の発達障害との合併
ASD(自閉症スペクトラム)は、ADHD(注意欠如多動性障害)やLD(学習障害)などの他の発達障害を合併することが比較的多くみられます。
- てんかん
海外の研究では、自閉症の人はたとえ発作がなくても約6割の人にてんかん性の脳波異常がみられるとの報告があります。幼少時には発作がなくても、成長にともなって発作が起こることもあります。
- 感覚のアンバランスさ
人間は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚といった感覚だけではなく、速度や回転を感じる感覚などの認識しづらい感覚を使いながら、自分の身体をコントロールしていると言われます。
ASD(自閉症スペクトラム)の人は、これらの感覚がアンバランスな人が多く、生活や学習、コミュニケーションにおいても配慮が必要です。ただ、感覚過敏により自閉症状が出ることもありうるので、一概に合併症とは言い難いものです。
- 2次的な問題
ASD(自閉症スペクトラム)の人は周囲から誤解をされやすく、自信がなく、強い不安を強く感じる機会は多くなりがちです。2次的な問題として、身体的あるいは精神的な症状が現れてしまうことがあります。なぜそういった症状が表れているのかについて、配慮をしていく必要があります。
ASD(自閉症スペクトラム)のサイン
まず人への関心が少ないことが挙げられます。
赤ちゃんの頃から母親があやしてもあまり反応を示さなかったり、必死に子育てをしているのになついてくれない、視線を合わせようとしないなどがあります。
友達と遊ぶ年齢になっても、友達に関心を示さず、ひとりで遊んだり、集団のルールや相手に合わせて行動ができません。
次に言葉の遅れが目立つことが挙げられます。2~3歳になっても両親を呼ばかったり、言葉を覚えない場合があります。
また、言葉を覚えても相手の話しをおうむ返ししたり、一方的に話す、知っていることを何度も質問するなどの傾向があり、相手や場面にあわせた会話が苦手です。
他には、感情表現が極端であることが挙げられます。
急にかんしゃくを起こしたり、唐突に泣き出すことがある一方で、全く表情を変えず静かにしていることもあるように感情の中間が抜けてしまっているように感じることがあります。
感覚が過敏であることが挙げられます。例えば触られることを嫌ったり、サイレンなどの大きな音が嫌いでその場から逃げ出すなどがあります。
子供の五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)に違和感を感じることがあれば、自閉症スペクトラム障害の可能性があります。
一概に発達障害といえど様々なタイプがあり、複数のタイプを持っている場合も少なくありません。
また、障害のタイプごとに特徴が重なるところがあるため判断が難しく、診察した先生や時期により診断名が異なることがあります。
発達障害はあくまでもその人の個性の一つであり、もし何か生活面で不便に感じることがあるならばそれを周りの方々とも協力しながら改善することが必要だと思います。
ASD(自閉症スペクトラム)の診断
発達障害の診断はお医者さんが下します。
また、診断方法としては親からのヒアリングであったりとか、発達検査の内容などを参考にするなどです。ここでは、発達障害の診断が下される基準を説明します。
A:以下の3つの症状をすべて満たす場合
対人的コミュニケーションと相互作用の障害
- 他の人とコミュニケーションを取る上で心の動きがあまりない。(怒られても何も思わないなど)
- 他の人とコミュニケーションを取る際、目が合わなかったり、無表情であったりする。
- ごっこ遊びをしなかったり、友達と一緒に遊ばない。また、友達・仲間への関心が薄い。
B:以下の4つの症状のうち2つ以上満たす場合
限定された反復する行動や興味
- 無意味な手足の動きをずっと繰り返す。
- ルーティーンにこだわりいつもと違う事が起きるとパニックになってしまう。
- 興味が限定的である。(駅の名前をすべて言えるなど)
- 周囲の音をすべて拾ってしまったり、味覚がやたら鋭いなど感覚が過敏である。
ASD(自閉症スペクトラム)とSST(ソーシャルスキルズトレーニング)
世の中には暗黙のルールと呼ばれる非常に抽象的なルールが存在しています。場面によって言葉を使い分けたり、相手の表情を読んだりしながら柔軟に調整しなければならない場面が多くあります。
しかし、ASD(自閉症スペクトラム)の人は、空気を読んで学んだり対応したりするということが苦手です。正しく理解をしていなかったり、マイルールを貫いてしまったりすることで、トラブルに繋がることも少なくありません。また、同じような場面であっても応用が効かないことがあります。
そこで、ASD(自閉症スペクトラム)の人にもSSTが活用されます。ワークシートやロールプレイ、ゲームなどを通して、新しいルールを学んだり、一度経験したルールをさまざまな場面でも使えるように応用練習をしたりします。成功体験を丁寧に積み重ねていくことが、将来の生活のしやすさに繋がっていきます。
【参考】
榊原洋一 脳科学と発達障害 ここまでわかったそのメカニズム 中央法規
榊原洋一 図解 よくわかる自閉症 ナツメ社
脳科学辞典 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/
宇野彰編著 ことばとこころの発達と障害 永井書店
理化学研究所プレスリリース 発達期のセロトニンが自閉症に重要 2017年6月22日
杉山登志郎 発達障害のいま 講談社現代新書