DSM-5における自閉症の診断基準の改訂と「アスペルガー」カテゴリの削除に関して
- 発達障害
- ASD(自閉症スペクトラム)
- 障害診断について
2013年の5月にアメリカ精神医学会の診断基準DSM(精神障害の診断と統計の手引き:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)が19年ぶりに改訂されました。DSMは「アメリカ精神医学会」という一団体によってつくられた診断基準ではありますが、世界中で使われている事実上のグローバルスタンダードとなっています。日本でも、このDSMを使った診断が一般的なため、今回の改訂は日本にも少なからず影響を与えられると考えられます。
今回のDSMの改訂によって、いくつかの変更が行われました。まずDSM-IVでは小児自閉症やアスペルガー障害などのサブカテゴリーを含む「広汎性発達障害」と呼ばれていたものが、DSM-5では「自閉症スペクトラム障害」というひとつの診断名に統合されました。
DSM-Ⅳのサブカテゴリの中でも、「レット障害」はX染色体の異常であることがわかり、自閉症と関連がないため、診断から除外されました。また小児性崩壊性障害は区別することの重要性が低いと判断されたため統合されました。
サブカテゴリとして有名なのはアスペルガー障害ですが、今回の改訂で「アスペルガー」カテゴリも除外されました。さらにもうひとつの残余カテゴリであった特定不能群もなくなりました。
広汎性発達障害から自閉症スペクトラム障害への統合によって診断範囲が狭まる
改訂によって診断範囲が縮小するのは確実視されていますが、これには明白な理由があります。
狭義での自閉症の診断基準は「社会性の障害」と「常同性」の2点が挙げられます。「社会性の障害」とは、年齢に応じた社会集団の構成・人間関係の構成・コミュ二ケーションが取れないことを指します。「常同性」とは、無目的な行動を繰り返す事を指します。たとえば、道順が決まっていたり、手をひらひらさせたり、服を着る順番が決まっているという点です。DSM-Ⅳの広汎性発達障害とDSM-5の自閉症スペクトラム障害で診断を比較してみましょう。
この変更を「縮小」と捉えることもできますが現行のDSM-Ⅳの広汎性発達障害の診断が二つの診断要件のうちどちらかひとつで構わないという曖昧さを残したものと考えると、DSM-5はその曖昧さが改善され、副次的な結果として結果診断範囲が縮小したと捉えたほうが正しいのではないでしょうか。DSM-Ⅳでは社会性の障害か常同性のどちらかふたつがあれば広汎性発達障害でしたが、DSM-5では両方が要件となっています。このふたつを要件として求める理由としては、非常に端的です。
また、DSM-Ⅳは広汎性発達障害の程度・重症度についても具体的に記述をしていません。これはDSM-Ⅳの診断基準が出来が良かったとは言えないとも考えられ、自閉症と同一の精神障害である必要がありますし、具体性にかけた記述では診断にバラつきができてしまうため、DSM-5のほうがより科学的で精緻なものと言えます。
改訂によって診断から外れるのは誰か?
DSM-Ⅳの要件のどちらか1つという基準は、自閉症(自閉性障害)やアスペルガー障害への要件ではありません。実は自閉症・アスペルガー障害とも、社会性の障害と常同性のふたつを診断基準として求めています。このふたつの診断をうけている者はDSM-5で自閉症スペクトラム障害から外れることはないと思われます。外れるのは「特定不能の広汎性発達障害」です。この特定不能群が要件のどちらかひとつという診断基準です。ただ、このグループがDSM-5への改訂で自閉症スペクトラム障害から外れる事にはなりますが、その替わりに「社会コミュニーケーション障害」という診断名が用意されています。
また、改訂によって問題になるのは常同性の要件だと言われています。知的障害(DSM-Ⅳでは精神遅滞)を伴わない高機能群では、常同性を伴わない場合が多くあります。常同性があったとしても、幼児期だけにあって、青年期には消えていたり、生活に影響するレベルではなかったりすることがあります。そうした場合に社会性の障害はあっても診断から漏れ出てケースが出てくるのです。
「自閉症の診断基準の改訂と「アスペルガー」カテゴリの削除について」 井出草平 synodos.jpより引用